Uncontrolled(アンコントロールド)
――疑似恋愛。
舞い上がりつつある気持ちを嘲笑うかのように、とくんと小さく打ち震えた心音と同時に、脳裏ではそんな言葉が過る。
俯瞰する自分がいるうちは、それはまだ恋情ではない。
ぎりぎりのところで押し留まっているようにも、疑似はあくまで疑似でしかなく、自分なりにこの恋愛ゲームを楽しんでいるだけのようにも思える。
少しだけ奔放な女性にでもなった気がして、歩幅を合わせて歩いてくれる朝倉の空いた手を取って繋いでみたらどんな反応をするだろうかと想像してみるが、さすがに実行はできず想像で終わらせる。
いっときの事とはいえ青春時代を共にした、甘えられる兄貴的存在である朝倉。
この居心地の良い距離感を自ら手放すのはあまりにも惜しい。

どうぞと言って案内された朝倉が住むマンションは分譲ということもあり、単身向けの1LDKとはいえキッチンやバスルームはゆとりを持って設計されていて使い勝手が良さそうだった。
築年数は経っているものの、店舗デザイナーだというオーナーが居住時に大幅に内装を変更したのだとういう。
リビングの扉から始まり、室内のフローリングはよくある一般住宅のそれではなく、カフェの床や壁で使用しているような味のある色味の一枚板が敷き詰められている。
そこに置かれたキャメル色の皮張りのソファがとてもよくマッチしていて、テーブルやチェストといい、まるでお洒落なインテリアショップの一角のような趣だ。

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