年下彼氏の甘い罠



ノックしてから部屋へ入ると、相手のガタッと椅子から立ち上がった音が聞こえた。


「お待たせ致しました。」


「いえ、こちらこそ。こんにちは。」


彼のいつも決まった挨拶が返ってきた。


安心して少し緊張が解れる。


それでやっと相手と目を合わせた。


優しそうな笑み。


5つも年下だというのに、彼の落ち着いた雰囲気に一瞬で癒される。


結城昴さん。


多岐川企画の営業で今年で23歳。


私が彼に癒されるのはその雰囲気だけじゃない。


なんというか…。


一言で例えるならクマ。


身長は180センチくらいありそうなくらい大きくて、髪の毛は伸びてボサっとしている。


いつもかけている眼鏡は流行りのお洒落なものとは程遠く、黒ぶちの大きなフレーム。


彼と話す時はその存在感の大きな眼鏡にばかり視線がいってしまって、顔の印象はほとんどない。


そんな外見だけど、彼との打ち合わせはとても穏やか。


お互いの意見が食い違ったり、私に提案してくれるときも強く押してくるんじゃなくてあくまで諭すように説明してくれる。


ミスや修正も指示を出す前に気付いて善処してくれている。


勘も良く、最後まで説明しなくても私が描いたもの以上のレイアウトで校正を上げてくれる。


正直彼以外担当者さんは考えられない。


この1年で私にとってなくてはならないパートナーのような存在になっていた。



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