奇聞録八巡目
日常の恐怖。
八巡十話。
毎年お盆になると、川を昇ってくる人がいる。
近所の清流は水難事故も多いから。
弟が流されてずいぶん経つ。
しかし毎年川を昇ってくる人の中に、必ず居る。
大好きだったトウモロコシを置いておくと、帰り盆には必ず芯だけ残して、きれいに食べ終えたトウモロコシが置いてあった。
ある盆の時に、弟が食べるところを見たいと隠れていた。
弟がトウモロコシのある器まで行くと、突然弟の後ろから、白髪の老婆が現れて、そのトウモロコシを食べ始めた。
弟は何も言わず、黙って見ているだけだった。
堪りかねた私は、
「それは弟のだから食べないでくれ!」と、
怒鳴った。
老婆は私をキッと睨むと、弟に暴力をふるいはじめた。
弟はなすすべなく殴られていた。
私はただただ涙を流して謝っていた。
それからはトウモロコシを沢山、供えるようにした。
もう、お盆に川へは行っていない。