奇聞録八巡目



さっきから玄関の電気を点けたり消したりしている奴がいる。



パチパチパチと、何度も何度も。



このラブホは週末はいつも満員なのに、この部屋だけ空室になっている。


良かったと思って入ってみたが、この有り様だ。


午前二時を回っているのに嫌がらせする奴が居るのかと、窓を開けて怒鳴る。



キャハハハハ・・・。



笑い声だけが、俺の耳元を通り過ぎた。



俺の彼女はベッドで固い表情のまま一点だけ見つめて、ぶつぶつ言っている。



「なんだ!?どうした!?」



俺は声を掛ける。



何かがベッドに上がり、跳び跳ねているようだ。


キャハハハハ。



誰も居ないのに、声だけが聞こえる。



不意に彼女はベッドから転がり落ちる。



彼女は大きな声で念仏を唱え始めた。



すると、






「バカジャナイノ。」




と、はっきり聞こえた。


するとその声が、彼女と一緒に念仏を唱え始めた。




俺は発狂しそうになりながら、彼女を抱き抱えて、車に飛び乗ってラブホを出た。



彼女は尚も念仏を唱えている。



「もう、良い!止めろ!」


俺が彼女を怒鳴ると、念仏をやめた。



「まったく、何なんだあの部屋は・・・。」



突然彼女が運転する俺に飛び掛かってきた。



車はスピンして、街路灯に激突した。



「い、痛い・・・。何するんだ!」




俺は見たこともない彼女の顔を見た。




「バカジャナイノ」



彼女は言った。



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