君の聲だけ響いてる
「ちょっと!聞こえないって酷い...もう1回言えっていうの?」
案の定、山田さんの高い怒鳴り声が聞こえてきた。
「まさかの修羅場...どうする高坂...」
若干この状況を楽しんでいた私。
今ならよくニュースとかで映る野次馬の心がわかる気がする。
「えっと...俺、耳悪くて。小さい声は聞こえないんだ。ごめん。」
気まずそうに答える高坂の姿は
身長に似合わずなんだか小さく見えた。
「謝らないでよ!もしかして本当は聞こえてたんじゃない?だけど嫌だからってそうやって耳のせいにしたんじゃないの?最低」
山田さんの言葉に見る見るうちに高坂の顔が青ざめていく。
こんな表情を見るのは初めてだ。
何があってもいつも顔色一つ変えない高坂が耳のことに触れられた瞬間ここまで変わってしまうとは思わなかった。
私だったらきっと胸ぐら掴んで睨みたいくらいなのに。
さっきまで好きだと言って告白した相手の言葉を信用出来ないんじゃ本当に好きだったなんて言えない。
"最低なのはお前だ"
そう言って今にも飛び出そうになる。さっきまでの野次馬根性はどこかへ消えて行った。
高坂を庇うというよりも自分的に納得が出来ない。
そんな私と高坂に追い打ちをかける一言
を山田さんは言った。
「結局顔だけ。クールでいいとか思ったけどただのコミュ障な障害者じゃん!」
"障害者"
使い方を間違えれば差別用語。
今1番言ってはいけない言葉。
この言葉にはさすがに我慢ができなかった。
何も言えず下を向く高坂の前に無言で向かう。心なしかがに股になってしまった。
突然現れた私の存在に山田さんは嫌な顔をした。
「何よあんた。盗み見してたの?!」
完全に山田さんの可愛いキャラは壊れ
ただのヒステリックな少女に変わっていた。
漫画でいう悪役。
「人聞きの悪い。ただ通りかかっただけ。それよりさ今のはないんじゃない?」
スイッチが入った心を止めることは出来ず、次から次へと口は動く。
「ただ1回聞き直しただけで普通キレる?確かに告白は緊張するしもう1回って言われたら嘘だろ!?って思うけどさその言い方はないんじゃない?」
「あんたに関係ある?」
「全く関係ないけどただただイラつく」
私の理由も結構最悪なもの。でも今はそんなの気にしてられない。
「はぁ?意味わからない」
「意味わからんないのはお前の方だよ。こいつのこと好きなんでしょ?なんで好きな人の言葉を信じられないかな。
もう1回くらい言えばいいじゃん、好きって。本当に好きならさ。
ただのお飾りにしたいならやめな。こいつにも迷惑だと思うよ」
「まじ、うっざ!勝手に言ってれば?」
「そうさせてもらうわ。あ、あと1つ。」
「なによ!まだあんの?」
「言っておくけど高坂は障害者じゃないよ。
ちょっと右耳が聞こえないっていう
"個性"だから。そこは忘れんな。」