やさしい眩暈
「だめ、店長命令だから。早く帰ってゆっくり休んで。明日もシフト入ってるでしょ?」


「そうですけど………」


「今日ムリして明日休まれたりしたほうが困るんだから」



そう言われると何も返せなくなって、私はしぶしぶ頷いた。


確かに自分でも、もうこれ以上働けそうにないと思った。

身体が驚くほど重く感じて、頭もぼんやりしているのを自覚していた。



「………じゃあ、すみませんけど、お先に失礼します」



そう言って頭を下げると、ミサトさんが「お大事にね」と笑いかけてくれた。


ちらりとルイを見上げると、まだ心配そうに眉根を寄せていた。



「ありがとね、ルイ。心配かけてごめん」


「謝らないでください。いつも俺のほうが助けてもらってるんですから」



私は「そんなことないよ」と笑って、手を洗うとキッチンを出る。


そして、スタッフルームに戻ろうと、レジの横を通りすぎたとき、視界の端に雪のかけらのようなものがちらつき始めた。

それから―――突然、目の前が真っ暗になって、足下がぐらぐらと揺れている気がした。


あれ、と思ってレジカウンターに手をつく。


次の瞬間、猛烈な吐き気に襲われた。



気持ち悪い………口許を手で覆い、うつむく。


身体がぐらりと傾いだのが自分でも分かった。



おかしい、と思ったときにはもう、私はレジカウンターにすがりつくようにして、ずるずるとしゃがみこんでしまっていた。



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