やさしい眩暈
ルイの胸に頬が触れる。


思いもよらないルイの行動に驚いて、すぐに、『下ろして』と言いたくなった。

でも、ふわりと浮きあがる感覚でさらに吐き気が増していたので、私は何も言えないまま、目を閉じてルイの胸に頭を預ける。



「ミサトさん、ごめんなさい。俺、ちょっと抜けてもいいですか」



すぐ上で、ルイの声が言った。


ルイの身体の中で反響した声が、服ごしに私の身体に伝わってくる。



「もちろんよ。レイラをお願いね。ちょっと休んでも良くならなかったら、連れて帰ってあげて」



ルイの代わりにキッチンに入ったらしいミサトさんが答える声がする。



「でも………ミサトさん、一人で大丈夫ですか?」


「今日はお客さんも少ないし、あと二時間ちょっとだし、なんとかなるわよ。それより早くレイラを休ませてあげて」


「はい。じゃ、お願いします」



ルイが小さく頭を下げるのが分かった。

いつもは丁寧すぎるほど深く会釈をするのに。


私の身体を揺らさないように気をつかっているのだと分かって、なぜだか泣きたくなった。



「………ごめんね、ルイ」



少し吐き気がおさまってきたので、なんとか声を出して謝る。


ルイが小さく首を振った。



「黙っててください。まったく、すぐ無理するんだから………」



呆れたようにルイが独りごちた。



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