やさしい眩暈
ルイが小さく、どうして、と呟いた。


私は微笑んで答える。



「リヒトに会えるのは、リヒトが私を呼んでくれたときだけなの。だから、リヒトから電話が来たら、私は絶対に会いに行く」



ルイの顔がくしゃりと歪んだ。



「―――そんなに、その人……リヒトさんのことが、好きなんですか」



私は深く頷いた。



「そう。すごく好き。リヒトが私の全てだから」



そう言って私は立ち上がった。


出かけるためにコートを羽織る。

今日はずいぶんと寒かった。

壁のフックにかけてあるマフラーに目を向け、少し考えてから、目を逸らした。


リヒトが私にくれたマフラー。

あれ以来、一度も使っていない。

どうしても使えなかった。



背後にルイの気配を感じる。

射すような視線も。


私は気づかないふりをしてバッグを肩にかけた。


目を合わせないままで声をかける。



「………せっかく送ってくれたのに、ごめんね。今日はありがとう」


「レイラさん」


「じゃ、私、行くから」


「レイラさん」


「ルイも一緒に出よう。駅まで送るよ」


「レイラさん!」



ルイが語気を強めた。


腕をつかまれる。



私はうつ向いたまま、「離して」と言った。



「離しません」




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