やさしい眩暈
薄暗くなってきた窓の外を見つめながらぼんやりと考えていると、通用口のドアが開く音がした。



「こんばんは。お疲れ様です」



大学の授業を終えて出勤してきたルイだった。


私も「こんばんは」と返す。


ルイがにこっと笑った。



「今日は寒いですねえ」


「そうだね。もう年の瀬だもんね」



この前あんなことがあったから、ルイと気まずくなってしまうかもしれないと思っていた。

でも、次に会ったときには、ルイはすっかり普通になっていて、それまで通りに対応してくれた。


そういう気づかいはありがたいと思う。



「あ、ルイ来たね。じゃあ、あたしはお先に失礼します」



ルイと入れ替わりのシフトになっていたユカが、手を振りながら帰っていった。


客足が落ち着いてきたので、ミサトさんも研修の報告書を書くために裏に行ってしまった。


その結果、おのずとルイと二人きりになってしまう。


気まずい。


なんとなく視線を合わせられずに、私は新しく出た洗い物を済ませてしまおうと、蛇口をひねった。




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