やさしい眩暈
「あ、レイラさん、代わりますよ」



ルイが隣に立って声をかけてくる。



「え? いいよ、私やるから」


「やらせてください。水、冷たいでしょ。もしかして、さっきまで洗い物してました? 手が真っ赤ですよ」



ルイが私の手に視線を落としてそう言った。



―――どうして、ルイは、こんなに優しいんだろう。


私は、優しくなんかされたくないのに。


それなのに、ルイは勝手に優しくしてくる。



私はうつ向いた。

声が出せない。


押し黙っていると、ルイがするりとシンクの前に身体を滑り込ませたので、私は後ろに一歩さがるしかなくなった。



「レイラさんはホール、お願いしますね」



断ろうとしたとき、入り口のドアが開いてお客さんが入ってきた。



「ほら、レイラさん、行って行って。俺、もう手ぬらしちゃったし」



ルイは確信犯的に笑って促す。


仕方なく私はキッチンを出て、お冷やを用意して接客に向かった。



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