やさしい眩暈
「レイラちゃん、こんばんは」



来店したのは、週に何回か来てくれる常連のサラリーマン、林田さんだった。



「こんばんは、いらっしゃいませ。今日は何になさいますか?」



お冷やをテーブルに置きながら訊ねると、林田さんは「うーん、そうだなあ」と首をひねる。



「レイラちゃんのおすすめは?」


「そうですね………今日は寒いので、身体が温まるものがいいですかね。ホットチャイとか」


「チャイ? どんな飲み物だっけ?」


「紅茶の茶葉を、水じゃなくて牛乳で煮出すんです。とても濃厚なミルクティーという感じです。それにシナモンとかジンジャーとかグローブとか、スパイスを入れるので、温まりますよ」


「へえ。じゃ、それもらおうかな」


「かしこまりました」



私は一礼してキッチンに向かった。


するとルイがなぜか、カウンターごしに険しい表情を向けてくる。



「ホットチャイひとつ………どうしたの? ルイ」


「了解です………何を話してたんですか?」



どういう意味か分からなくて、私は怪訝な顔で首を傾げる。


ルイは冷蔵庫からチャイの入ったポットを取り出しながら続ける。



「あのお客さん―――林田さんでしたっけ、あの人と、何か喋ってましたよね。何の話ですか?」




< 125 / 250 >

この作品をシェア

pagetop