やさしい眩暈
私は首を傾げながら店に戻る。


見回してルイの姿を探した。

林田さんと目が合い、ぺこりと頭を下げると、なぜか気まずそうに視線を逸らされる。


ルイはキッチンにいた。

こちらに背を向けて食器棚のグラスを並べなおしている。


私はその背中に向かって歩き出した。

足音に気がついたのか、ルイが振り返る。


「レイラさん」


唇だけで呼んで、手招きをしている。


「なに? どうかした?」


「ちょっと、こっち」


ルイがしゃがみこんだ。

客席から見えないように。


私も同じようにしゃがんだ。



「レイラさん、さっき、気づいてました?」


「え? なにに?」



眉を寄せて訊ねかえすと、ルイが小さくため息をついた。



「………さっきは嘘ついてすみませんでした。ミサトさんに驚かれましたよね」


「え、うん………まあ」


「すみませんでした。でも―――俺がレイラさんを呼びにいったとき、林田さんが………レイラさんの、お尻に触ろうとしてたんです」



私は大きく目を見開いた。



「やっぱり気づいてなかったんですね」


「………うん、全然」



ルイがもう一度深く息をついた。




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