やさしい眩暈
ルイはそう言ってくれたものの、やっぱり私はどんな顔をしていいか分からず、目を合わせられないままで黙々と仕事をしていた。


お客さんがいるうちは、会話をしなくても不自然ではない。


でも、9時を過ぎたところで店内にいたお客さんがみんな帰っていき、閉店することになったあたりで、私は気まずさに耐えられなくなっていた。



テーブルや床の掃除、紙ナプキンや卓上の砂糖の補充などを終えて、ルイの手伝いをしようとキッチンに入る。


気まずいな、と思っていたら、それを察してくれたらしく、コーヒーマシンの掃除をしていたルイが、いつも通りのにこにことした表情で声をかけてきた。



「レイラさん、ちょっと世間話していいですか?」


「ん? いいよ」


「レイラさんって、どうしてこの店で働きだしたんですか」



予想もしなかったことを訊かれて、私は意表を突かれた。



「どうしたの、急に」


「いやー、なんとなく。気になって」


「ふうん………いいけど、面白くもなんともない話だよ」


「いいんです。レイラさんの話なら、俺にとってはなんでも面白いんで」



またそんな居たたまれなくなるようなことを。

そう思ったけど、ルイの悪戯っぽい笑顔を見ていたら、気まずさは消えた。



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