やさしい眩暈
―――あんなに幸せな日は、もう二度と訪れないかもしれない。


ふとそう思って、絶望的な気分になる。



見知らぬ女の子と歩いているのを見かけた日以来、リヒトからの連絡はない。


もしかしたら、私はもうリヒトに忘れられてしまったのかもしれない………。



そこまで考えて、私はふるふると首を振った。


やめよう。

こんなことを考えていたら、仕事に集中できない。



「こんにちは」



私はいつになく大きな笑みを浮かべて、店のドアを開いた。



「レイラさん! こんにちは」



真っ先に満面の笑みで迎えてくれたのは、ルイだ。



「なんか新鮮だなあ。俺のほうがレイラさんを出迎えるなんて」


「そう?」


「いつもはレイラさんが先に店にいて、あとから俺が来るでしょ?」


「たしかに、そうだね」



そんな小さなことを、なぜかルイは心から嬉しそうに語っている。



それを少し、可愛いな、と思って、自分でも驚いた。


とっくに成人している男の子に対して、そんな感情を抱いたことなどなかったから。




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