やさしい眩暈
クリスマスということもあって、にぎわう店内はカップル客が目立っていた。


必然的にゆっくりしていくお客さんが多くなるので、スタッフもわりと時間に余裕ができる。



「ルイ、ちょっとホールのほうお願いしていい?」


「あ、はい」



今のうちに、と思って私はルイと交代してキッチンに入った。

キッチンに置いてある珈琲豆や紅茶の茶葉の残量を確認して、ストックルームから在庫を移動させる作業をしようと思ったのだ。



不足分をメモパッドに書いて立ち上がったとき、「レイラさん」と呼ばれた。


振り向くとルイが立っている。



「ん? なに?」


「ストック取りに行くんですよね? 俺、いってきます。メモ貸してもらっていいですか?」


「え? いいよ、私が行くよ」


「いいですよ、豆ってけっこう重いじゃないですか」



ルイの言葉に、私は呆れてしまった。



「そんなに気ばっかりつかってて、疲れない?」



訝しむようにたずねると、ルイはにこっと笑って首を横に振る。



「疲れませんよ、レイラさんにつかう分には。なんせ、下心がありますからね」



弾むように言って、ルイは私のメモをひょいっと奪い取り、軽やかな足どりで裏へ行ってしまった。




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