やさしい眩暈
「行かないで―――俺と話してる途中でしょう?」



ルイが眉をきつく寄せて言う。



「行かないで、ここにいてください」


「………でも」


「ここにいて………」



すがるような瞳に見つめられて、祈るように言われて、私は頷くしかなかった。


それでも、リヒトを視界にとらえることだけは、やめられない。



ルイが震える吐息をもらした。



「………あの人が、レイラさんの恋人なんですね」



恋人と呼んでもいい存在なのかは分からない。


でも、確かに、私の恋しい人。

恋い焦がれてやまない、私の好きな人。



こくりと頷いてから、自嘲的な笑みが唇に浮かぶのを感じた。


ついさっき、ルイに対してあんな気持ちを抱いたのに、

今はもう、リヒトをこんなにも恋しく思っている。


さまよう心。

愚かな心。


馬鹿な女だ、私は。



それでもリヒトの姿を見つめつづけていると、ふいにリヒトが空を仰いだ。


ひらひらと舞い落ちてくる雪を解かしそうなほどに強い眼差しで。



それから、すっと目を動かし、街を一瞥する。


その視線が、私とルイの上にぴたりと止まった。



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