やさしい眩暈
鳥居をくぐって砂利道を歩き、まずは手水舎に向かう。


水盤にたまった透明な水はきれいだけれど、なんとなく冷気が伝わってくるような気がした。



透き通って白く光を反射する水を覗きこみながら、思わず「冷たそう………」と呟く。


ルイも「ほんとですね」と苦笑いを浮かべながら柄杓を手にとった。



すくいあげて左手にかけると、思わぬ温かさを感じる。



「あれ、意外とぬるいね」


「ほんとだ。手が冷えてるからですね、きっと」


「ああ、そっか。よかった」


「左手洗ったあとに口すすぐんでしたっけ」


「ええと、あ、そこに書いてあるよ。右手洗ってから口だね」


「あ、そうなんだ。俺、今まで間違ってたかも」


「まあ、こういうのは気持ちが大事だから、ね」



そんな何でもない会話が、なんとなく気恥ずかしい。


リヒトとはこんな話なんてしたことがなかったな、とふいに思った。



でも、こういう世間話みたいなやりとりは、くすぐったいけど楽しい。



手水を終えると、私たちは本殿に向かった。


大きな神社では後ろに並んで待っている人たちが気になってゆっくりできないけれど、ここは思う存分、のんびり参拝できるのが嬉しい。



賽銭を投げて鈴を鳴らし、両手を合わせる。


じっと拝んでいると、少しずつ心が浄化されていくような気がするから不思議だ。




< 220 / 250 >

この作品をシェア

pagetop