やさしい眩暈
エレベーターのドアが開いて、私は一歩踏み出す。


そのとき。



「―――レイラ」



私は目を見開いて足を止める。


声が聞こえてきた方向に顔を向けた。



リヒトがこちらへ向かって歩いてきていた。



襟の広い白のTシャツに、濃青のカーディガンを羽織っている。


ほっそりとした薄い身体にひどく似合っていて、私は目を細めた。



「………リヒト」



呟いた声は掠れている。


リヒトは手にワインレッドのマフラーを持っていた。



「これ、つけてけよ。寒いだろ?」


「え………いいの?」


「お前、昔からすぐ風邪ひくじゃん。明日もバイトあるんだろ?」


「うん………ありがと」



うつむいて言うと、リヒトはふっと笑みをもらして、私の首にマフラーをぐるぐると巻いた。



「………あったかい」



ほうっと息が洩れる。


本当に、ぞくりとするほど温かかった。




< 23 / 250 >

この作品をシェア

pagetop