やさしい眩暈
「いやー、なんかさー、あんまり想像つかなくて。リヒトさんが告白とか、ちょっと考えらんない。

やっぱレイラさんから告ったの? それもちょっと想像つかないけど」



キイチくんが興味津々という表情で言うと、隣のトーマがキイチくんの頭を小突いた。



「お前、野暮なこと訊くなよな。そんなん聞いてどうすんだよ」



リヒトと私の異常な付き合い方を知っているトーマは、助け船を出してくれたらしい。


キイチくんが頭を押さえながら「だって気になるじゃん!」と口を尖らせた。



仲の良さそうな二人のやりとりを見ながら、私は6年前の夏を思い出していた。


夏休み恒例の野外ライブ。

近くのいくつかの大学の軽音サークルと合同で、公園のステージを借りて3日連続で全バンドが演奏し続けるというイベントだった。


出演の順番は、サークルメンバーたちによる投票で決めるというルールがあって、リヒトのバンドは最終日のトリ3だった。


リヒトはそのころからすでに、コピーじゃなくてオリジナル曲をやっていた。


その曲はもちろん、流行の路線の音楽でも、キャッチーな音楽でもなかったけど、

安定した演奏力とリヒトのカリスマ性のせいか、まだ二年生だというのにかなりの人気を得ていた。


上級生たちの実力派バンドの中でも負けず劣らずのステージング。

ライブハウスとは違う開放的なステージの上で、水を得た魚のように生き生きと歌うリヒトを、私はうっとりと眺めていた。




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