やさしい眩暈
『―――次、ラスト』



言葉少なに告げたリヒトの声が、歌い始めたのは………

エリック・クラプトンの“Layla”

―――《いとしのレイラ》。



イントロのギターソロが聴こえた瞬間、驚いて顔をあげた私の視線は、

ステージの中央からまっすぐにこちらを見つめながら歌うリヒトの視線と、

静かに絡み合った。



リヒトが微笑んだ気がした。


それから、甘い声で愛おしむように、レイラを歌った。



それは、リヒトなりの思いの伝え方だったんだと思う。


自分の気持ちを決して口に出すことはないリヒトなりの、精一杯の伝え方。



私は全身を陶酔感に包まれた。


眩暈がして周りが見えなくなって、私の目にはただリヒトだけが確実なものとして映った。


他の全てのことが、どうでもいいと思った。


リヒトが浮気していようが、他の女と遊んでいようが、そんなことはどうでもいい。


リヒトがたとえ一秒でも私のことを見つめる瞬間があるのなら、私はその一瞬を、永遠にでも待ち続けられる。


そう思った。



この歌を聴いた瞬間、私は、自分が完全にこの男の虜になったことを思い知った。


そして、一生この男から逃れることはできないだろうということも、痛いくらいに感じた。




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