やさしい眩暈
「―――レイラ? 大丈夫か?」



ぼんやりと昔のことを思い出していたら、隣のトーマが顔を覗きこんで訊ねてきた。


私は我に返って、「うん、平気」と笑った。


トーマは「そうか」と頷いて、再び焼酎を飲み始める。

トーマは無口で、あまり詮索をしてきたりしないので、気を遣わなくていいから楽だ。


私も梅酒ソーダのグラスを手に取り、リヒトのほうに目を向ける。


リヒトは隣に座った女の子の肩に手を回し、煙草を吸いながら何か話しているようだった。

ときどき、顔をすっとその子に近づけている。

キスをしているように見えた。


私は視界の端にその様子をとらえながら、トマトとモッツァレラチーズのサラダを食べていた。



しばらくすると、リヒトが女の子の肩に回していた手を外し、険しい表情でその子を見下ろしているのが見えた。


どうしたんだろう、と思って見ていると、リヒトが突然、周囲を見回し始める。


そして、私と目が合った。



――――レイラ。こっちに来い。



周りのざわめきのせいで声は聞こえなかったけど、

唇の動きと、その視線を見れば、私にはリヒトがそう言っているのだと分かった。


私はほとんど無意識のうちに立ち上がり、惑星の引力に吸い寄せられる衛星のように、リヒトのもとへと向かった。



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