やさしい眩暈
「レイラ、お前さあ、今日のライブで一番よかったの、どの曲だと思う?」



私がリヒトのテーブルにつくと、リヒトはすぐにそう訊ねてきた。


私は「『ヘヴン』が最高だった」と即答した。


ライブの中盤で演奏されたバラード。

アメリカのブルースの気だるさと、イギリスのグラムロックの華やかさと、日本の歌謡曲の哀愁をミックスしたような、

哀切で圧倒的な存在感のある曲だ。


聴きながら、現実を忘れて夢を見ているような、恍惚とした気分になった。

レコードで聴くよりも何百倍も良かった。



私の答えを聞いた瞬間、リヒトがにっと笑う。



「やっぱ、お前は分かってんな」



その言葉に、私はまた眩暈をおぼえる。

震えが来るほどの歓喜。


このまま死んだっていい、と思えた。



リヒトが、傍らに座らせていた女の子を移動させ、「座れよ」と私に命じる。

私はうっとりしたままリヒトの隣に腰をおろした。



「この女、2曲目の『ミカ』が良かったとか抜かすんだよ。ふざけてるよな」



ついさっきまで横に侍らせて腕を回していた女の子を親指で差して、リヒトが不機嫌そうに言う。



「あんなノリいいだけの安っぽい曲、どこがいいんだよ。そう思うだろ? レイラ」



私は曖昧に笑った。


睨むような目つきで私を見ている女の子の視線が気になったから、素直に頷けなかったのだ。



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