やさしい眩暈
*
「―――リヒト」
まだ夜が明けきらない、薄暗い冬の朝5時。
ベッドの上に横たわって微かに寝息を立てている裸の背中に、私は声をかける。
「リヒト」
もう一度、呼んでみた。
リヒトは動かない。
きっと、昨夜のライブの疲れで熟睡している。
だから私は、安心して近づくことができる。
ベッドを軋ませないように、そろそろと腰かける。
お風呂あがりの濡れた髪の先から雫がこぼれて、くしゃくしゃのシーツに水玉模様を作った。
背骨が浮かび上がった滑らかな背中。
シーツの上に寝乱れた柔らかい髪。
絵画の題材のような美しい光景を、私はうっとりと眺める。
しばらくそうしていると、リヒトが低く掠れた声でうめいて、寝返りを打った。
顔は向こうに背けたまま、身体半分がこちらを向く。
リヒトはどこもきれいだけれど、その中でも横顔がいちばん美しいと思う。
長い睫毛、細く通った鼻梁、薄い口唇、尖った顎。
目を奪われずにはいられない、美しい横顔。
決して私を振り向かない、冷たい横顔。