これは平和で日常的なラブコメです。
一章 平和な日常

春休み(プロローグ)

カチャカチャカチャカチャ

幼馴染みの家にて、ひたすらコントローラー押す音が響く。現在格ゲーをやっているが既に二敗している。どうしてか、なかなか勝てない。

カチャカチャ

「おっしゃー!三連勝ぉ!!」

「くっそー、相変わらず容赦がないなお前」

これで三敗、喜ぶ幼馴染みを見ると何故だろうか、イラッとしてくる。

「いやいや、夕紀が弱いだけだから……」

グサッと来た。

「なんだよまったく……奇跡の歌姫
蒼天藍は何処に行ったんだか……」

奇跡の歌姫、こいつがそう呼ばれていたのはいつ頃だったか。

「む……そう言うバンドの王子と呼ばれていた暮内夕紀は何処にいったのかなー?」

………そうきたか。

俺の名は暮内夕紀、そして今ここで一緒にゲームをしているこいつは幼なじみの蒼天藍。

俺や藍が言っている『歌姫』や『王子』というのは中学の頃に付けられたあだ名だ。まぁ、その話は後から話していこう

「あーちゃん、ゆうくーん、ご飯よー?」

「はーい、今行くー。ほら、夕紀、行くよ?」

「あ、おい待てよ……ったく片付けくらいしていけよ………」

俺は藍の家で暮らしている。別に付き合っているわけではない。

俺は5年前に両親を亡くし、独りになっていた。
そんな俺を引き取ってくれたのが藍の姉、胡桃さんだ。胡桃さんと藍も5年前に両親を亡くし、実家にいる祖父母の仕送りもあってなんとか女2人で育ってきたらしい。

俺を引き取って大変になっただろうが、胡桃さんは俺に対して藍と分け隔てなく接してくれた。
いつかはその優しさを返してあげたいと思う。

「ゆうくーん?」

「あ、今行きまーす。」

部屋を片付け、階段を降りる。

まだ幼い俺を安心させるため、胡桃さんは言った。
『本当の家族になれるか分からないけど、私頑張るから。
だから無理をしないで甘えてね。』

甘えてね……か………

「もー、ゆうくん遅い!ご飯冷めちゃうよ?」

「す、すいません……」

「うんうん、素直で可愛いから許す。ぎゅーっ」

「ちょっ、お姉ちゃん!?うわ、鼻の下伸ばしてるし……」

おぉぉ、お……ぱ…が、駄目だ!
落ち着け自分………落ち着け………

「ぎゅーっ♪」

「はいはい!そ、こ、ま、で!」

あぁ、温もりが………じゃない!助かった……

「助かったよ藍……」

「気にしない気にしない、はあ……」

「………?どうかしたのか?」

「もういい、いただきます。」

あちゃー、なんか怒らせちまったかな?

「あは、嫉妬するあーちゃんが可愛い!さて、いただきます。」

「……?いただきます。」

ここに来て5年。
こんな日々がいつまでも続くと思っていた。いや、実際にいつまでも続くのだろう。

夕飯を食べ終えてゆっくりしていると急に藍が立ち上がり、

「ちょっと散歩いってくる。んと、8時までには帰るから!じゃ、いってきまーす」

と言うなり部屋を出ていった。いつも突然行動するから驚いてしまう。

ガチャンと部屋のドアが閉まり、玄関のドアが開く音がした。リビングに居るのは俺と胡桃さんだけ。

藍が出発して5分が経った。すると、胡桃さんが俺の座っているソファーに腰を下ろしてきて、そして---

ぎゅっ……と抱き締めてきた。

「………………」

「ん……………」

この温もりが心の傷を癒してくれる。俺は今も両親を亡くした時のトラウマが残っている。藍の前では普通に過ごしているが胡桃さんと二人になると何故か甘えてしまう。この行為をする時はドキドキしない。この愛は家族愛だから。

「ゆうくん………」

「胡桃……さん…」

しばらく抱き合って傷を癒す。この行為を藍に見られてはならない。家族として育ってきた者が抱き合っているのを見て、勘違いして欲しくないから。だからこそ

「………もう、大丈夫です。」

「そか、よしよし……」

胡桃さんは抱擁を解くと俺の頭を優しく撫でてくれた。その手が心地よく目を細めてしまう。



しばらくすると藍が帰ってきた。

「ただいまー、ほい、アイス。あれ?お姉ちゃんは?」 

「さっき風呂に入ったよ。」

「ん、分かった。アイス冷凍庫に入ってるって伝えといてー?」

「ほーい。」


自分で言えばいいのに…と心で呟いたが世話になっているので文句は言えない。


一時リビングでくつろいでいると、風呂場から声が聞こえた。

「ふんふんふーん♪あ、ゆうくん、下着持ってきてー?」

「あ、はーい…って下着ぃ!?」

「たぶんそこに畳んでるからぁ」

し、下着って…まさか…これ?

ピラッと畳まれている布を開く

白のショーツに白のブラ

け、健全だけど…逆に…

「ゆうくーん?」

「はい!今持っていきますから!!」

出来るだけ下着を見ないように…見ないように…

ガラッ

「持ってきまし……」

「ふぇ…………?」

ドアを開けた先には、天国が広がっていた。……じゃなくて!

「ご、ごめんなさい!わざとじゃ……」

「う、うん分かってるから!だから……その……」

「………」

「下着で目を隠すのは………」

あ………………れ?
目の前が真っ白だ。そして微かに…

「はぅぅ……」

「ごめんなさいぃぃぃぃ!」

下着をドアの前に置きリビングへ逃げたした。

「……下着で動揺してノックするの忘れてた……いや、置いてから声をかけて去るべきだった……」

ま、まぁ……藍に気づかれてないから折檻は……

「あ、お姉ちゃん、まだ入ってたの?って顔が赤いよ?」

あ、ヤバい……

「………………(ごにょごにょ)」

「な、なぁぁぁにぃぃぃぃ!?」

「あ、あーちゃん!」

「こんのエロ夕紀ぃぃぃぃ!!」

「ヽ(ヽ゚ロ゚)ヒイィィィィィィィ!ジェネシスゥゥ!」

ドゴスッ………バタン

「で、言い訳は?」

「何もありません」

馬乗りされて拳を前に出されたら何も言えない。

「きっぱり言っちゃったよ…ま、いいや。アタシも入ってこよ。あ、覗いたら一本ね?」

「誰が覗くか!!」

普通の奴なら、骨一本くらいいいじゃないか。と思うだろうが藍の場合、骨ではなく腕だからな………

それにしても……裸を見てしまったり顔面キックで倒された挙げ句脅される…災難だった

「…いい匂いがしたな…裸か…」

脳内で胡桃さん(裸)が現れる

『もー、見ちゃ、だ、め♡』

「……………」

ガスッ

「ぶべらっ!!」

「妄想すな!!」

「やかましい下着で来るな!早く風呂にはいれ!」

「っ……!!」

ムキになって言い返すと藍は顔を赤くして………

ギチギチギチギチ

「理不尽だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

首を絞められた俺の悲鳴が鳴り響く中、さらに顔を真っ赤にした胡桃さんがアイスを舐めていた。

ぱっと視線が合う

「あ、そろそろ寝なきゃー、あはは……」

そう言って胡桃さんはダッシュで二階へ。


「……うぅ、引かれたよ………これ。」

「何泣いてんの?まったく、よしよし」

「うぅ……猿に慰められた……」

「だぁぁれぇぇがぁ猿じゃぁー!!」

「ぎゃぁぁぁぁ!いいから早く入ってこい!!」

蒼天家は、今日も変わらず平和(?)であった。


あ、そうそう。バンドの王子と奇跡の歌姫ってあだ名だけど、たまたまネットにupした動画の受けがよくて付けられたあだ名だから特に意味はない。つまりこれは、伏線回しゅ……

ゴスッ

「………ぅッ…」

「メタい話は無しだよ!」

「………はぃ………ずびばぜん………」

毎回毎回みぞおちにグーを入れるのは止めていただきたい。
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