幸せの定義──君と僕の宝物──
それからしばらく経って、山田先生が診察室に入るようユウを促した。

ユウがレナの隣に置かれたイスに座ると、山田先生は苦い顔でため息をついた。

「片桐さん、お仕事はもう産休に入ったのよね?」

「ハイ、1週間ほど前に…。」

「仕事中は何も問題なかった?」

「ほんの少しお腹が張る事はあっても、じっとしていればすぐに治まりましたし…特に変わった事はなかったと思います。」

「そう…最近、何か無理しなかった?」

山田先生に尋ねられ、レナは首をかしげて考えている。

レナの隣で話を聞いていたユウは、無理をしなかったかと言う山田先生の言葉に、昨日の事を思い出した。

(あっ、もしかして…。)

「昨日、友人の結婚式と二次会に出席してたんです。お昼前から出掛けて、帰宅したのは晩の9時頃だったと思います。」

「なるほど、それね…。」

山田先生はため息をついた。

「片桐さん本人は無理をしたつもりはなかったんだと思うけれど…妊婦の体はとても疲れやすいの。それに、足元が冷えなかった?」

「そう言われてみれば…。」

レナは昨日の事を振り返る。

6月の下旬と言う事もあり、外は真夏のように蒸し暑かったが、建物の中に入ると、どこに行ってもクーラーが効いていた。

結婚式に出席するために着ていた衣装は少し長めのワンピースではあったが、普段のように靴下を履くわけにもいかず、足元が冷えるなとは思っていた。

帰りはタクシーで帰ろうかとも思ったが、涼しかったので少し長い道のりを散歩がてらに歩いて帰った。


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