幸せの定義──君と僕の宝物──
ハルは体にバスタオルをしっかり巻き付け、カーテンをめくって、リビングに置いたままの着替えにそっと近付いた。

リュウはそれに気付かず、相変わらず電話の相手と話を続けている。

(誰と話してるんだろ…?)

「ああ…悪かったな…。いや…そういうわけじゃねぇけどさ…。うん…。えっ?何言ってんだよ…勘弁してくれよ。だいたいいくつ歳離れてると思ってんだよ。ハル、まだ15だぞ?」

思いがけず自分の名前を耳にして、ハルは立ち止まった。

「えっ?バカか、オマエは…。そんな事できねぇよ。いろいろまずいだろう?オレ、30過ぎたいい大人だぞ?」

リュウの言葉を聞きながら、ハルは悲しそうにうつむいて唇を噛みしめた。

(やっぱりハルは、とーちゃんにとってまだまだ子供なんだ…。好きとか…そういうんじゃないんだな…。)

「ああ…もういいって。じゃあな、切るぞ。」

電話を終えたリュウが、新しいビールを取りに行こうと立ち上がり、振り返った。

バスタオルを巻いただけの姿でそこに立ち尽くしているハルに驚き、リュウは半歩後ずさる。

「ハル?!なんでそんなカッコ…。」

「ひどいよ、とーちゃん…。ハル、とーちゃんが思ってるほど子供じゃない…。」

「えっ?!」

ハルは体に巻き付けたバスタオルを外して床に落とし、裸でリュウの胸に飛び込んだ。

「大人って何…?いくつになったら大人なの?どうやったら早く大人になれるの?」

「ハル?!何言って…。」

リュウは突然の事に慌て、ハルの素肌に触れる事に戸惑い、抱きしめる事もできないまま立ち尽くしている。



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