幸せの定義──君と僕の宝物──
ユウはベッドの縁に浅く腰掛けて、レナの点滴をしていない右手を握り、もう片方の手で髪を優しく撫でながら、何度も何度もキスをした。

「これで明日も仕事頑張れる。」

「来てくれるのはものすごく嬉しいけど…無理だけはしないでね。ユウもちゃんと休んで。」

「大丈夫だから。それに、一人で家にいるよりここでレナの顔見る方が元気出るよ。」

「赤ちゃんも喜んでるのかな。さっきからすごく動いてる。」

「ヤキモチ妬いてたりしてな。」

「まだ性別聞いてないけど、どっちかなぁ。」

「名前も考えないとな。」

「うん。一緒に考えようね。」

「そう言えば、さっきのマタニティー雑誌の付録、名付けの本だった。」

「ちょうどいいね。見てみようよ。」

それから二人は、付録の名付け本を広げ、男の子だったらこんな名前がいいとか、女の子だったらこんな字を使いたいとか、楽しそうに相談した。

まだ見ぬ我が子への愛しさは日毎に募る。

「退院したら、出産の準備もしないとね。」

「そうだな。必要な物、いろいろあるもんな。一緒に買いに行こうな。」

ユウはそっとレナのお腹を撫でた。

「やっぱり、パパとママって呼ぶのかな?」

「子供が?」

「うん。」

「どうかな。レナはお母さんの事“リサ”って呼ぶだろ。オレは小さい頃は“かーちゃん”だったかな…。」

「そうだったね。いつの間にか“おふくろ”になってたけど…いつから?」

ユウは少し首をかしげて考える。

「うーん…中3の途中かな…。ほら、ホントの親じゃないってわかってからだと思う。」

「そっか。なんとなく遠慮したのかな?」

「どうかな…。」


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