幸せの定義──君と僕の宝物──
思い出すと今でも胸の奥に、初めての本気の恋に身を焦がした甘くて苦い想いが蘇る。

初めて本気で恋をした事も、大切な人を傷つけてしまった事も、その後も何年もずっと、もう2度と会うことのない彼女を想い続けていた事も、二人の記憶から消える事はない。

だけどもう、随分昔の話だ。

若かったあの頃から13年もの月日が流れ、すっかり大人になった今となっては、想い出に過ぎない。

リュウも、トモも、そう思っていた。




バーでトモと別れて自宅に帰り着いたリュウは、シャワーを浴びてビールを飲みながら、タバコに火をつけた。

さっき聞いたトモの言葉が頭をよぎる。

(オレも…多分トモも、どんなに悔やんでも過去の事はもうやり直せねぇって、わかってんだけどな…。)

あの頃、トモがどんなに彼女を好きだったか、リュウは知っていた。

だけど、その彼女に自分が恋をしていた事は、トモに聞かされるまでまったく知らなかった。

(11年も黙ってんだもんな、トモのやつ…。)


トモは本当は、大好きだった彼女を奪ったリュウを責めたかったのかも知れない。

立てなくなるほどボロボロになるまで殴りたかったかも知れない。

それなのに、トモはそれをしなかった。

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