幸せの定義──君と僕の宝物──
翌日。

スタジオでベースのチューニングを終えたリュウは、喫煙スペースの長椅子に座ってタバコを吸っているトモの隣に腰を下ろし、タバコに火をつけた。

「トモ、オレ来週、実家に帰るわ。」

「珍しいな…。かわいい嫁に会うのか?」

「かわいい嫁って…。勘弁してくれよ。」

“かわいい嫁”が、小さい頃からリュウを慕っている姪のハルの事だとわかると、リュウはトモの肩をグーで殴った。

「違うのか?ハルが会いたいって駄々こねたんだとオレは思ったんだけどな。」

「違うっつーの、小6のクラスの同窓会だ。」

「小6?」

「あぁ…。小6の時の担任が今年定年迎えるんだとさ。あの先生には世話になったしな。ちょうどスケジュール空いてたし。」

「ふーん…。それで?」

「アイツ…来るかも…。小6の時、同じクラスだった。」

「アイツ…って…アユちゃんかっ?!」

「そう。オマエも来るか?ユキも来るぞ。」

トモがかつて初めて本気で恋をした彼女、山代歩美もまた、3人いた“アユミ”のうちの一人だった。

別の中学に進んだ彼女が、小学校を卒業した後に母親の離婚で苗字が酒井から山代(ヤマシロ)になっていた事を知らなかったリュウは、大人になって再会した後もずっと“酒井”と呼んでいた。

もう会えないと思っていたアユミに会えるかも知れないと突然言われたトモは、戸惑い視線をさまよわせた。

「いや…。オレ、小学校違うし。」

「二次会くらいなら、紛れ込んでも文句言われねぇよ。有名人だし?」

「でもな…。」

トモはうつむいて何かを考えている。

「じゃあさ…久し振りに実家帰れば?オレ、車で行くつもりだしさ。一緒に乗ってけよ。」

「そう言えば最近帰ってねぇな…。」

「一緒に帰るか?」

「そうだなぁ…。考えとく。」


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