幸せの定義──君と僕の宝物──
ユウは、水割りを一口飲んで、トモの顔を見て微笑んだ。

「トモさ…なんかあるんだろ?」

「え?」

「たいした事は言えないかも知れないけどさ…オレだって聞くくらいならできるよ。今日、オレもレナも、トモの様子がおかしいってずっと気になってた。なんか、悩みでもあんのか?」

「悩んでるわけじゃねぇけどな…。」

トモは水割りのグラスを持つ手元を見つめながら、また小さくため息をついて話し始めた。

「ハタチの頃にな…初めて本気で好きになった子がいたんだ。彼女さえいれば、他になんにもいらないってくらいにな…。」

トモは、ポツリポツリと、遠い日の恋の話をし始めた。

ユウは時折うなずきながら、黙ってトモの話に耳を傾けていた。

トモは話しながら早いペースで水割りを煽る。

そのうち、トモのグラスのウイスキーは水割りからロックに変わっていた。

「オレは気付かないうちに彼女を縛り付けて不安にさせてさ…オレの知らないところで、彼女は他の男にその悩みを打ち明けて…オレにないものを持ってるその男に惹かれたんだってさ。…結局な…彼女はその男に抱かれてさ…もうオレとは一緒にいられないって、泣いて謝って…どんなに引き留めても彼女の気持ちは変わらなくてさ…それで、終わった。」

話し終わると、トモはウイスキーのロックを一気に飲み干した。

テーブルの上に置かれたトモの手は、痛みを我慢している時のように、強く握りしめられている。


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