幸せの定義──君と僕の宝物──
「リュウがロンドンに行ってすぐかな。一度アユに会って食事したんだよね。そしたら、体調崩しちゃったから休学してるって。一人暮らしやめてお母さんと一緒に暮らす事にしたんだって言ってさ。その後すぐ引っ越したらしいんだけど…。」

「へぇ…。」

「一昨年の梅雨時だったな…。モールでアユとばったり会ってね。あの後2年くらいして、復学するために今度はお母さんと一緒にこっちに戻ってきてたんだって。なんとか教員免許取って、大学卒業して、今は小学校の先生やってるって言ってたんだけどさ。」

「そっか…。頑張って夢叶えたんだな。」

小学校の先生になるのが夢だと言っていた、あの頃の彼女を思い出して、リュウが嬉しそうに微笑んだ時。

「その時、アユ、男の子連れてた。」

ユキの一言に、やっぱり彼女はもう、誰かと結婚して幸せになっているんだなと、リュウは少し切ない気持ちで小さくため息をついた。

「そっか…。30も過ぎりゃ結婚して子供がいても当たり前だな…。」

リュウの呟きに、ユキは眉を寄せた。

「その時その子、10歳だって言ってたよ。」

「え?」

「32の時に10歳って事は、22になってすぐ産んだ子でしょ?体調崩してって言ってたの…どう考えてもあれ、妊娠だったんじゃないかなって。」

「えぇーっと…。」

(ちょっと待てよ…。オレ、あの時…いや、もしかして…。)

リュウは、まさかそんなはずはないと思いながらも、自分の子なのだろうかとか、もしかしてトモの子かも知れないなどと、まとまらない考えをぐるぐる巡らせる。

リュウは遠い記憶を手繰り寄せ、トモと彼女が別れ、自分が彼女に失恋した時期を思い出す。

(オレがロンドンに行ったのが10月半ばで…アイツが店に来て彼氏と別れたって言ったのが…いつだ?夏の終わり?)


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