幸せの定義──君と僕の宝物──
翌朝。

リュウは布団の中で、モソモソと寝返りを打った。

その腕の中に、温かく柔らかい感触。

「んー…。」

リュウは夢うつつにそれを抱きしめ、たった一度だけ抱きしめ合った彼女の小柄な体の感触を重ねた。

(アユミ…。)

若かったあの日のように、彼女の面影が閉じたまぶたの裏に浮かぶ。

(アユミ…オレは…。)


「苦しいっ!苦しいよっ、とーちゃん!!」

(……“とーちゃん”…?)

リュウの腕の中で、息苦しさに耐えかねたハルがバタバタと暴れだすと、リュウはゆっくりと目を開いた。

自分がハルを抱きしめている事に気付いたリュウは、驚いて大きく目を開き、慌ててその手を離した。

「ハル?!なっ…なんでオマエ…!!」

「もう…とーちゃんを優しく起こそうと思って来たんだよ。」

「なんだよ優しくって…。」

ハルは上目使いに見上げ、リュウの唇を人差し指でそっと押さえた。

「んー?添い寝しておはようのちゅー?」

リュウはその手を掴んで振り払う。

「このバカ…!!マセガキ!!」

「何よ…ハルの事、ギューッてしたくせに…。そんなにハルが好き?」

「それは…!はぁ…。もういいや。とにかくあっち行け。」

リュウが布団から追い出そうとすると、ハルは必死でその手にしがみついた。

「やだ。今日はハルと遊んでくれるんでしょ?夕べ約束したもん。」

(コイツ…体はでかくなっても中身は子供の頃と一緒じゃねぇか!!)

リュウは呆れて、抵抗するのをやめた。


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