幸せの定義──君と僕の宝物──
生まれた時から父親がいないと言う事は、マサキの母親は未婚でマサキを生んだのかもしれない。

結婚をしていても妊娠や出産、子育ては大変そうなのにと思いながら、トモはマサキをおぶって歩いた。

「マサキの母さんいくつ?」

「んーっとね、34だっけ?」

「へぇ…。オレと同じ歳か、ひとつ上かな…。若い時に産んだんだな…。」

同じくらいの歳ではあるけれど、自分の知らない苦労がきっとあるんだろうなとトモが思っていると、マサキが嬉しそうに声をあげた。

「あっ、母さん帰ってきた!!」

トモの背中で、マサキが道の向こうから歩いてくる女性に大きく手を振る。

「母さーん、おかえりー!!」

「マサキ、どうしたの?!」

トモは夕陽の眩しさに目を細めながら、マサキの母親だと言う、遠い記憶の中に聞き覚えのある声をしたその女性を見た。

「え…?」

トモは思わず足を止めた。

マサキの母親と、かつて初めて本気で恋をした愛しい人の面影が重なる。

(まさか…アユちゃん…?って事は…。)

「トモ、どうしたの?」

突然足を止めたトモに、マサキが不思議そうに尋ねた。

「いや…。」

マサキの母親も、トモの姿を見て息を飲み、大きく目を見開いた。

そして、ゆっくりと近付いてくる。

「母さん、トモに送ってもらった!!」

マサキの母親は一瞬トモの顔を見た後、嬉しそうにトモの背中で笑うマサキの顔を見上げた。

「マサキ…どういう事…?あんなにダメだって言ったのに…まさか、一人で行ったの?」

母親の厳しい口調に、マサキは途端に大人しくなる。


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