(短編集)ベッドサイドストーリー・1
私はそれを受け取る。黙ってじっと見てしまった。・・・ノンフィクションだよね・・・。フィクションの小説を探してたんだけど、たまにはこういうのもいいかも・・・そう思いながら。
私が受け取ったのをみると彼はふんわりと頷いて言った。
「興味なかったらあっちの棚のナ行だから、戻しておいてくれる?じゃあ、今日は楽しいものを見せてくれてありがとう」
「は?」
本から視線を外して顔を上げた私に、彼は両手を体の前でパッと開いてまた笑った。
「パントマイム見てるみたいだったんだよ、さっき、人にぶつかってた時。まっすぐ歩いてきてドン!両手をバタバタ。面白かった。──────さよなら」
話しかけたときと同じくらいに唐突に、彼はその場を立ち去った。
私は手渡された文庫本を持ったままでその場に立ち尽くす。
─────────────えーっとお・・・・。一体あの人何だったんだろう・・・。失礼なのか失礼じゃないのかイマイチわからない人だった。
手の中に残された本を見る。
優しい表情をして緑を見詰める女性。色あせた金髪を後頭部でゆるくまとめていて、後れ毛が儚げな印象を見せている。
私はその本を持ってレジへ向かった。