(短編集)ベッドサイドストーリー・1


 その本は結局、その夜寝落ちするまでも読んだし、日曜日の午前中のまったりタイムにも読んだし、半身浴のお供にもしたし、仕事に行くときに鞄にも忍ばせておいたりする、大切な本になった。

 一人のアメリカ人女性の、波乱に満ちた半生の記録。その膨大な文字数にかかわらず何ともゆったりとした雰囲気が流れる彼女の笑顔や家、植物や小物の写真の数々。

 笑い、泣いて、唸る。そして癒されて、温かい気持ちにさせてくれる。

 こんなことが起こるんだなあ!ここでこの人が泣かなかったのは凄いなあ!私ならどうするだろう。そんな自問自答を何度もしながら読み直す。

 そんな本に出会えて良かった。

 私は何度目かの読了で潤んでしまった瞳を拳でぬぐって思う。

 あの時、本屋で、彼に出会えて良かったって。


 丁度日曜日も月曜日も私は連休で町へ出ず、しかもその後は本屋の都合で臨時休業になってしまって、1週間も駅前の本屋さんには通えなかったのだ。

 私はまたあの男性に会えるかなあと思って、閉まってシャッターが下りている本屋の前まで必ず平日は毎日行ってみたりもした。

 お礼が言いたかったのだ。

 素敵な本をおすすめしてくれて、ありがとうって。

 あなたのお陰で私は、温かくて心震えるようなたくさんの大切な時間を過ごすことが出来ましたって、そう言いたかったのだ。

 感謝の気持ちが溢れるなんて、この年になればそうそうはない。何事にも鈍感になってしまって、もうどうしようもないってほどこみ上げる気持ちみたいなものには、出会えないものだ。

 だけど、彼のお陰で私はこの本に出会ってしまった。

 ああ、今日は会えるかな──────────



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