(短編集)ベッドサイドストーリー・1
久しぶりに開店している本屋さんへ、電車から降りた私は早足で向かう。
開いてるんだ、今日は。だって昨日シャッターに張り紙がしてあったもの。これから年末までは、お休みしませんって。
ドキドキと煩い鼓動を宥めながら、店内に足を踏み入れた。
この数日ずっと思い描いていた、あの赤毛とグレーに光る瞳、背高のっぽの彼は、いるだろうか。
思い出すたびに表情などの細かい部分は忘れてしまって、私の中には彼の印象だけが残っている。だけど、会えばまた判ると思っていた。
彼の本屋にくる時間帯がまた同じであることを願っていた。
どこのどんな人なのか、何も知らないのだ。そんな人とまた偶然に出会うには、一度出会った場所をうろつくしかない、そう思って、店が閉まっていても毎日通ったのだから。
新刊コーナー、雑誌、趣味の棚、それから科学雑誌の場所、文庫本を回って、ぐるぐると店内を早足で歩きながら、私は彼の姿を探す。
見回したけど、覚えているような外見の人はいない。
どれも黒い頭や茶色い頭ばかりだ。
ああ、いないのかな。時間帯が悪かったのかな。ここで1時間くらいはぶらぶらしてみようか。そうしたら会えるのかな・・・・。
挙動不審で警察に電話されないくらいには行動を抑えて、私は彼を探した。
だけど、判らなかった。
会えなかったのだ。
あの本は今日も私の鞄の中にちゃんといるのに。早く早く、この感動を伝えたいのに。そんな、やっとお店も開いたのに・・・。
いつもなら輝いて見える本たちが、急に色を失くした様に思えた。棚から背表紙を見せてキラキラと光をまいていた雑誌たちも表面についた埃が目立つような感じがして目をそらす。
何てこと・・・。私の大事な場所が。あの男性に会えないって思っただけで、色を失ってしまうなんて。
愕然として、私は本屋の片隅につったっていた。