(短編集)ベッドサイドストーリー・1
自分がそんなにショックを受けているってことが、一番ショックだったようだ。
私は初めてその本屋のカフェ機能を使わせてもらうことにした。お金を払ってカップを受け取る。そしてサーバーでコーヒーを入れて、一番奥の椅子に座った。
・・・落ち着きなさい、全くもう。
自分にそう言い聞かせた。この時間にたまたま来てなかったって可能性の方が、会える可能性より何倍だってあるのだ。それにもしかしたら、ここら辺に住んでいない人なのかもしれない。偶然ここの本屋に来ていての出会いだったのかもしれない。
そうだったとしたら、私は二度と彼に会えない可能性の方が高いのだ。
ゆっくりと息を吸い込んで吐き出した。
周りは皆それぞれに寛いで、コーヒーと本を楽しんでいる。私は自分の席に座ってぼーっとそれを眺めていた。
静で、落ち着く光景だった。
今も鞄の中にあるあの本を思い浮かべる。
いい本との出会いを貰った、私はそれで満足するべきなんだわ、そう思った。
もう会えなくても・・・いつか、もしも彼に会えるときがあったら、その時にはちゃんとお礼を言えるように、心の準備をしておこう、そう思うだけでいいんじゃない?って。
それまで、あの赤毛でグレイの目をした男性を忘れないように何とか頑張ってみれば、それで──────・・・
少し温くなったコーヒーに砂糖とミルクを入れる。3回ほどマドラーでかき混ぜて、ゆっくりと口に運んだ。
あら、美味しい。
ちょっと驚いた。だって印象としては、何もありませんけどコーヒーでもどうぞ、みたいなレベルのサービスだと思っていたのだ。
でもこれ、ちゃんと美味しいわ。私は嬉しくなってニッコリと笑う。