(短編集)ベッドサイドストーリー・1
そんなある日。
「ねえ、あんたが好きだって勧めてくれた本、この人のインタビューにも載ってるよ~」
そう言いながら、二人いる姉の下の方が、テーブル挟んで向かい側に座る私に女性誌を渡してきた。
「何?ちょっと待って」
テーブルで化粧をしていた私は、右側の睫毛にマスカラを塗りたくって答える。
今日は友達と久しぶりにテーマパークへ遊びに行く日だった。失敗してはみ出たマスカラをティッシュオフしてから、姉から雑誌を受け取った。
そこには各界の著名人が薦める「私の人生を変えた本」特集が載っていた。ほら、ここよって姉が長い爪で指す場所に目をやって、私はハッと息をのむ。
そこには、いつかのあの人が。
見覚えある赤毛にグレイの瞳。笑わずにカメラを見据えていて、その顔は真面目そのものだった。
ミュージカルダンサー、羽 修(ハネ・シュウ)さん 27歳
「えーっ!!」
私は雑誌を握り締めて顔にぐーんと寄せた。ミュージカルダンサー!へええええ~!そうだったのか、あの人!
あの本屋にいる間、私を見下ろす瞳は笑っていたから、真面目な顔だと雰囲気がえらく違った。だけど、あの人だ。ケタケタと笑っていたあの人だ!
彼の写真の下には、あの本の写真と粗筋が。そして彼のコメント。「大好きな本ですね。この本を初めて読んだのはニューヨークから戻る飛行機の中で、僕泣いてしまったんですよ。何かを読んで泣いたのは初めてだったので、自分でもびっくりしました。悲しい話というわけではないのですが、勇気を貰えましたね。僕は僕でそれ以外ではなくて、これでいいんだ、っていう」