(短編集)ベッドサイドストーリー・1


 ダンサーとして異国へ行っていて、ミュージカルへの転向をするかで悩んでいる時期に出会って、背中を押して貰えた、という内容が淡々とつづられていた。そして、最後の文に、私は思わずあ、っと言いそうになる。

 そこにはこんな言葉が。

「以前オフで立ち寄った町の本屋さんで、ちょっとした出会いがあったんです。見ず知らずの女性にこの本を薦めました。それをあの人がどうしたかは知らないんですけど、読んでくれてたら嬉しいなと思いますね。感想を聞いてみたいです。もうあの町へ行く予定はないので、そんな願いは叶いそうにありませんけどね」

「どうしたー?」

 姉が前で目を丸くしている。

 私は片方のマスカラをしただけのマヌケな顔で、しばらく口をあけっぱなしでいて、それから勢いこんで、姉に説明した。

「こ、ここここれ私だよ~、お姉ちゃん!」

 あの出会いを絡まる舌で懸命に話す私に頷きながら、姉は雑誌を取り返し、黙って読んで顔を上げる。そしてニヤリと笑った。

「やったね、感想返せるじゃん」

 って。

 私はえ?と問い返す。

「だってどうやって?もうここには来ないって書いてるし、それに・・・」

「あんたバカ?」

 混乱する私に姉はバッサリとそう言った。

「名前も職業も判ったんだから、彼に手紙を書くことは簡単でしょう?ネットで調べれば個人のサイトも持ってるかもしれないよ。自己紹介して、コメントで感想を書けばいいじゃないの」

 おおおおお~っ!!


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