(短編集)ベッドサイドストーリー・1


 オギとは、彼女のあだ名だ。

 美術系の専門学生であるオギは、性が荻原と言った。だから友達は皆オギと呼ぶ。生まれつきの柔らかくて長いクセ毛をなびかせながら彼女が歩いていると、おーい、オギ!と色んなところから声が掛かる。

 彼女は明るい社交性を身に着けていたので、その声に一々笑顔で反応する。たまには手を振って。

 元気?今からランチなの?私は遠慮しとくわ、帰ってちょっと眠りたいの、そう言って、オギはスタスタと歩いていく。

 彼女はいつでも緑色の長いスカートをはいているので、そのスカートを風が揺らして白くて引き締まった足首が見えると、男の子達は眩しそうな顔をするのだ。

 彼女、いいよな。そう話しあう。猫みたいだと思わないか?あの大きな目、いいよなって。だけどダメだぜ、あの子は身持ちが固いんだ。誰にでも優しくて明るいけど、心は見せないって聞いたことがあるぞ。

 そうなのか?俺ちょっとモーションかけようと思ってたんだけど、無理かなあ。やめとけよ、見向きもされないよ。

 男友達にそう言って止められた男の子は、ちょっとむくれて鼻をならす。それからプライドを傷つけられて機嫌が悪い声で言う。まあ、あの子は変わってるしな、って。そして更に笑われる羽目になるのだ。

 お前、オギのことなーんにも知らないんだなあ!って。

 彼女はずっと好きな男がいるんだよ。皆知ってるよ。それで、手を出さないんだよ。あの笑顔をみちゃったらなあ~って。

 好きな男?片思いなわけ?

 いやいや、違うよ。でも相手は社会人なんだってよ。俺らみたいなお子様では無理なんだよ。

 そういう男の子は、でもあっけらかんと笑っている。卑屈そうな影はちっとも見えない。それは、ちゃんと知っているからだった。彼女の彼といる時の微笑みを。


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