(短編集)ベッドサイドストーリー・1
その日は、帰りに飲みに誘われた。
珍しく後輩の女の子からだった。
「奢らなくていいです!先輩、是非飲みに付き合って下さい~!!」
私は苦笑を浮かべて一度頷いた。だって、彼女の可愛い顔は崩れた化粧でめちゃめちゃだったのだ。どうやら就業と共に彼氏とメールで喧嘩をしたらしい。
ビールに焼き鳥のコンビで後輩と11時まで飲んだ。11時22分の終電を逃すと、私は家に戻れなくなる。
そう途中で気付いて、パッパと帰り支度をする。
ありがとうございました!と、たっぷり自分の不毛な恋愛話を語りつくした後輩が頭を下げるのに手を振って、私はホームの上をダッシュする。
もう季節はしっかりと冬で、口から吐く息が白かった。
体にはしっかりとアルコールが入ってるはずだけど、面白くもない恋愛話(しかも、微妙な不幸度合いでオカズにもならなかった)ばかり聞いていたので、頭が妙に冴えている。
カツカツとヒール音を響かせて、ホームに止まっていて既に発車ベルが鳴っている終電へ、飛び乗った。
「あ、間に合った・・・」
ヤレヤレ、と私は一息つく。
こういう時はいつもの車両~などと言ってられないから、階段に一番近い車両に乗ったのだ。だけど、もう電車に乗ったら自動的にいつもの車両に動くように、頭の中でセットされているらしい。
動き出した電車の中で危なげにフラフラしながら、誰も乗っていない車両を一つ通り抜けて、私は最後尾の車両までをのんびりと歩いた。
誰もいないし、酔っ払ってるし、終着駅まで乗る私は寝過ごすことだってない。必ず起こして貰える立場の特権で、眠り込むことだって出来るのだ。・・・しないけど。