(短編集)ベッドサイドストーリー・1
とにかくユラユラと電車の揺れに抵抗もしないままで、私は一番最後の車両の一番奥の席目掛けて歩いた。
そこにも誰も居なかった。終電は確かに閑散としてはいるけど、誰もいないってのは珍しいな~・・・そうぼんやりと考えながら、いつもの定位置に腰を下ろす。
「はあ~・・・」
一人しかいない気軽さで、ため息をつきながら座席にもたれた。
ごとんごとん。電車は夜の中を走る。
窓から見える街のあかりがどんどん遠ざかっていき、小さな煌きとなって瞼の裏に残像を置いていく。
この単線の私鉄は、途中に無人駅もあるほどの山の中を通っていくのだ。山中にある無人駅には電球二つだけの明りが灯り、普段は何とも思わないけどたまにぞくりとするものを感じる。
誰もいないホームに向かってドアは開く。
そして、やっぱり誰も降りない。ここら辺では周囲2キロくらい、このホームの明りしかないのではないだろうか、と思うような暗闇と静寂。うっすらと空との境に山の稜線が浮かび上がるだけなのだ。
今晩も電動のドアが音を立てながら開いて、外の冷たい空気を入れた。私はぼんやりと椅子にもたれて、その冷たい空気を見えないと判りながらも目で探す。
『扉、閉まります』
車掌さんの低い声がマイクから響いて、ドアが閉まった。
私は何気なく、ふと運転席の方を向いた。
そうか、と思ったのだ。この車両には確かに乗客は私一人だけど、隣の小さな運転席、今は一番後ろの小部屋には、アナウンスやドアの開け閉めをする車掌さんがいるじゃないの、そう思って。
そういえば、この席はドアの開閉を担当する車掌さんと一番近いのだ。そう思って。