(短編集)ベッドサイドストーリー・1
オギはそんなことを言われているとは知らずに学校を出て、駅前に向かっている。
今日は彼に会えるかもしれない。そう思って、待っていることにしたのだ。
改札口が見える場所に立って、駅前の人ごみを眺めている。
オギはこの時間も好きだった。
次の電車に彼が乗っているかもしれない。そう思ってワクワクして改札口を眺める。あ、残念、乗ってなかったのね。特にガッカリしたりはしない。彼女はそんな時、ひょいと肩をすくめる。
気晴らしに小さな花屋で安いブーケを買う時もある。
彼が駅から出てきたとき、こっそりと近づいて、いきなり鼻先にこのブーケを突き出したら、一体どんな反応をするだろうか。そんなことを考えて一人で笑っている。
オギの彼は、社会人だ。毎日スーツを着て、会社に出勤する。夜も遅くなることが多いらしい。たまに、彼女の待ち伏せにあって、一緒に手をつないでオギの部屋に帰ることもあるし、今晩は無理なんだ、そう言って悲しそうな顔をする時もある。
オギは楽天家だったので、一緒に帰れないことは残念に思うけれども、別に拗ねたりしなかった。
そんな時間が勿体ないのだ。それよりは彼の横顔を見ていたいと思うのだ。それに、私には匂いがあるんだから。大丈夫だって、彼女は思っていた。