(短編集)ベッドサイドストーリー・1
君が言うように、確かに僕も目を細めていた。
霞んで見えない遠くの視界の端を、わざわざ見ようと目を細めていた。広大な風景って、不安になるくらいに大きなものなんだね。
自分の小ささを実感するとか、よく言うけれど、あれが判ったよ。確かに、僕はなんてちっぽけなんだ、そう思った。何度も、何度も。笑えてくるくらいに、何度も思った。
砂風で服の中にまで小さな砂塵が入っていて、何だかこそばかったよ。髪も白っぽくでザラザラしてくるし、苦笑していたね。カメラなんて取り出す余裕がなかったんだ。ただ、僕は全てに圧倒されていて。
何度目かの月を見た。
白くて、日本で見るよりも大きかったね。
月を見て、僕はやたらと自由になったような気持ちにもなったよ。あの時は、楽しかったな。
やっとパムッカレへついて、地元でレストランを開いてる人の奥さんが日本人だってことで、お金を払って車に乗せてもらったんだ。
学生さん?と聞かれたので、違います、と言った。よく考えたら、今の僕には身分がない、そう気がついたよ。
「ここら辺で、日本人の女性を見ませんでしたか?若くて、多分・・・一人で」
僕は君の容姿を何とか伝えようとしたんだ。だけど難しかったね。思ったより、僕は君のことを知らないんだなって気がついた。兎の着ぐるみを着ている姿はハッキリと覚えているんだけれど。
その奥さんは笑って、恋人でも追いかけてきたのって聞いた。それに首を振るのがちょっと残念な気分だったよ。
僕はきっと一種のホームシックで、人恋しい状態だったんだと思うんだけれどもね。