(短編集)ベッドサイドストーリー・1
「来てくれないと思ってたわ、本当は。葉書一枚のヒントしかなかったし、恋人でもないあたしの為に、わざわざこんな遠い外国まで!ねえ?」
僕は相変わらずぼーっと見ていた。
「うちの親はきっとあきれ返って放置するだろうって思ったし・・・だから、あなたでなければ、誰も来てくれないって思ってた」
君はちょっと痩せて、日にこんがりと焼けていて、ここら辺で買ったのだろうタンクトップとスカートを身に着けていた。その姿は日本人には見えなくて、僕は知らない女の子をみているような気持ちだったんだ。
何だろう、自由な風をまとった、素敵な子がいる・・・そんなことを考えていた。
その間にも君はベラベラと喋っていた。ずっと待って、3年経って誰も探しに来なかったら、ここで死のうと思ってたの、って。
だけどすぐに来てくれたのね、一番来て欲しかった人に会えて、嬉しかったと。
「死ぬ?」
その言葉だけがハッキリと僕の耳に引っかかって、ハッとしたんだ。何だって?驚いて目を見開いた。
君はニコニコと笑ったままで、大丈夫、と大きな声で言った。
「あの頃は、日本にいて、煮詰まっていたのよあたし。多分、ね。あなたのことが好きだった、そう思っていた。だけど友達以上にはなれないし、あたしに興味がないっていうのはハッキリ判ってしまっていた。ほら、あるでしょ?何だか何も面白くなくて、夢も希望もなくってさ。若いってだけで無駄に時間があると毒なのね、きっと。それで脱出したのよ、日本とその日常から。・・・でもここにきて、毎日毎日広大な景色を見て風に吹かれていたら、そんなことどうでもよくなっちゃたわ」