(短編集)ベッドサイドストーリー・1
・カフェの恋
・カフェの恋
木枯らしが吹くようになった冷たいブルー一色のビジネス街の一角。
そこだけは沢山の色が繁殖しているようにみえる賑やかで素敵なカフェが、私のこの街での居場所だった。
オーナーの好みだろう、アンティークのテーブルや陶器の食器。さり気なく飾られた生花やドライフラワーの花束。それから太い蝋燭が色んな場所に置かれている。その雑多な、でもセピア調でまとまった店内は、完全に私の心を落ち着かせるのだ。
だから、ここのカフェで、私はいつも色んなことをする。
企画書の作成、会議中にとったメモの確認、それから読書に、友達へのバースデーカード作り。それに、勿論ただぼーっとするだけの時だってある。
アンティーク調を好む、というのが大変良く判るこのカフェのマスターが淹れる、カプチーノも好きだった。たまにあるキッシュも。ホウレンソウのキッシュを口に入れながらぼーっと見る、ビジネス街の風景は特別なのだ。
私は、居心地のよい場所で守られているって思えるから。
外の冷たい風や厳しい現実も、ここには入ってこれないって思うから。
寒い夕方にはカプチーノではなくてホットワインを注文し、チョコレートと一緒に味わっては一人でゆるゆるととろけていく。
それも特別な時間だった。
だけど。
私は静かに、誰にもばれないように深呼吸をして、椅子に深く座りなおした。
この、私のお気に入りのカフェで、つい最近、気になる人が出来てしまったのだ。
前から存在は知っていた。つまり、相手もこのお店の常連さんだったから、顔を知っていた、という意味。確実ではないが、あっちも私の存在は知っていると思う。同じ温度で。この店によく来ている人だ、くらいの感じで。