(短編集)ベッドサイドストーリー・1
ある日、たまたまテーブルが隣同士になったのだ。
そしてその日の会議でつるし上げにあって半泣きになっていた私は、最低の気分でその椅子にドスンと座った。その時に腰がテーブルにあたってしまい、ガラスコップの中のレモン水が少しはねてしまったのだ。
「あ」
私は急いで手を伸ばし、揺れるコップをしっかりと掴んだ。ああ、何てこと!私ったら・・・。コップは倒れはしなかった。だけど、水が飛び散ってしまったかも────────
そう思って、隣のテーブルの人に謝ったのだ。すみません、水、飛ばなかったですか、って。
「大丈夫、です。どこも濡れてませんから」
その低い声が、するりと耳の中に入ってきた。
私は一瞬瞬きを忘れて隣のテーブルに座る男性を凝視してしまった。
・・・あら、いいお声。
そして、何と言うか、可愛らしい姿・・・。
隣のテーブルに座ってノートパソコンを開いている男性は私が気にしないようにと気を遣っているような表情で、こちらを見ていた。
先っぽに向かって茶色に染まっている髪は耳を覆うほどの長さ。銀縁の細いフレーム眼鏡をかけていて、黒いシャツを着ていた。瞳は大きめで、薄い唇を綺麗にお月様の形に上げている。
童顔なのを色んな小物で年相応に見せている、そんな感じだなとその時は思った。
とにかく結構不躾な視線を投げていたと気がついて、私は急いで目をそらして頭を下げる。それからドキドキ煩い鼓動を無視して何とか椅子に深く腰を落ち着けた。
・・・う、結構・・・格好いい人だったんだわ。この常連さん。初めてじっくり見たけど、可愛い外見に低い声のアンバランスが何かぐ~っと来た・・・。
心の中でそう一人ごちて、私は顔を赤くする。