(短編集)ベッドサイドストーリー・1
次にカフェにいったら、そして彼を見かけたら・・・。彼の隣へ座ろう。そして話しかけてみよう。私はそう決心した。自分から、話しかけてみようって。まだ彼がいくつなのか、それに彼女や妻がいるのかすら私は知らないのだ。だから、だから・・・。
自分から、話しかけよう。
1月の空気は澄んでいる。その凛とした冷たい空気の中、いつものように会社から直行で私はあのカフェにきた。
カランと、鈴のなる音がして、ふわっと温かい空気に包まれる。寒くてブルーなオフィス街から入るここは、いつでも入口からすでに天国だ。自動的に笑顔になった。
「いらっしゃいませ」
マスターが、いつもの笑顔で迎えてくれる。2週間ほどきてなかったから、私はそれだけで心弾む思いだった。
「あけましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しく」
笑いながらそう頭を下げて、今日はテーブルでなくカウンターに座った。ちらりと見ただけでもカフェの店内にある小さなテーブル席は全部埋まっていたのが判ったからだった。マスターはニコニコとして注文を待っている。私は温かいおしぼりで両手を温めながら、カプチーノを注文する。
それから、ゆっくりと店内を見回したのだ。
蔦やアイビーが絡まる壁、それから板の床、アンティークの家具がそこかしらに置かれている店内を。コートを脱ぐついてにぐるりと体を捻って、見回した。
あの人は・・・いない。
心の中にちょっとしたガッカリ感が広がる。だけど、私は小さく苦笑したのだ。