(短編集)ベッドサイドストーリー・1


 え。

 私はびっくりして目を見開く。眼鏡。男性。・・・って、もしかしてもしかしてもしかすると、彼!??

「あの・・・」

 恐る恐る、私は声を出す。混乱していた。多分、あの人だろうけど、一体どうして私を待っていたというのだろう。あれ、何かしたっけ?それとも、落し物とか?いや、だって──────────

 混乱した顔の私にまた笑いかけ、マスターは優しく言う。本人に聞いてみてください、いらっしゃいましたから、って。

 来た?本人が?

 私は振り返る。狭い椅子の上で、コートが押されて落ちかけた。

 それを片手で掴み取って。

 あの人が、立っていた。

 すぐ、斜め後ろに。

 私はぽかんと口を開けたままで、彼を見上げる。

「───────酷いですよ、マスター。先に言ってしまうなんて」

 彼は多少顔を赤くしているようだった。私とは目をあわさずに、マスターを膨れたように睨んでいる。

「すみませんね。年寄りのお節介で。アメリカンですか?」

 はい、と頷く彼に会釈をして、マスターはカウンターの中で仕事を始める。

 私は椅子の上で上半身を捻ったままで固まっていた。

 彼だった。ちょっと茶髪で、銀フレームの眼鏡。気になっていた、あの人─────────


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