(短編集)ベッドサイドストーリー・1
マスターは、ニッコリと笑った。
「この方も、あなたを探してるな、って。ここから見てればすごくよく判りましたから」
「!」
私は大いに赤面する。思わず両手で顔を覆った。ちょっとちょっとマスター!!何てこと言うのよ~!
確かに確かにそうだけど、そんなに判りやすかったとは思いたくない。本人の前でなんてこと!
一瞬でその場は気温が上昇したに違いない。ニコニコと笑うマスターの前、カウンターの男女はお互いにとても緊張した状態で座っていた。
真冬のビジネス街の一角、古き良きヨーロッパの佇まいの素敵なカフェで。
全く二人とも純情ですねえ、そう言って笑うマスターを前に、カウンターに彼と並んで座っている。
私達は二人とも照れて顔どころか全身が真っ赤、体温は確実に上昇中でホカホカだった。
並んだアメリカンとカプチーノが冷めていく。だけど、それにも気がつかずにそろそろと顔を見合わせ、お互いにちゃんとした会話をしだしたのは結構あとになってからだった。
柔らかそうな彼の、先っぽが茶色に光る髪。それが本当に柔らかいこと。それから眼鏡の向こう側の瞳が、少しばかりブルーがかっていることを知る。
私達は夢中になって情報を交換し、笑顔を見せあった。
新しい宝箱を発見した子供みたいに。
前では、マスターが楽しそうに笑っていた。
・「カフェの恋」終わり。